村上満志(6)恥ずかしながらの「昔話6」
2007-07-13


ベルリンでの留学生活は、月額750D.M(ドイツ・マルク)のドイツ政府からの奨学金のみで賄われていた。その額でオペラも聴けたし、ベルリンフィルの本拠地フィルハーモニー・ザールのポディウムと言う指揮者の正面の席のチケットも買えた。そして時々は先生にも、もぐり込ませて頂いた。

そんなベルリンでの生活で、冬の到来と共に必要不可欠なのが「コート」。ある日仲間とベルリンのスーパーマーケット(確かBilka ビルカ?と言ったと思う)へコートを買いに行った。

時代と国は違うが、1階食品、2階が衣類売場のヨークマート?もしくは西友?と言った感じである。2階の角の方に、ずらりと並んだコート、多くはイミテーション皮の150~200D.Mの物だった。しかし、人目を憚るように外れの方に暖かそうなラム(子羊)の内側に起毛した、その上柄が灰色と白のまだら模様、一目でものほん(本物)と分るコートが上等そうなハンガーに鍵つきで掛かっていた。値段は750D.M。1ヶ月分の奨学金と同額!!仲間と一緒に、ひやかし気分で店員に鍵を開けて呉れるように頼むと、「買いもしないのに、東洋の貧乏学生が!」と、口では言わなかったが、顔に書いてあった。店員が渋々鍵をはずしたコートに手を通すと、恥ずかしながら、初めて感じる感触。「暖ったか、温ったか、こんなコート有ったか?」さげすんだ顔を見返してやりたくもあったが、殆どはずみ(・・・)で「お買上げ」してしまった。

店を出て、買ったコートの暖かさ以上に、寒くなった懐具合に身震いした記憶は、今も残っている。

灰色と白のまだら模様がかもしだす雰囲気から、そのコートはそれからしばらく「象アザラシ」の異名を欲しいまゝにした。

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